わらの秋/オイタル
 
ひしゃげたわらの一筋に
薄い雲から来る太陽光の残滓と
飛び交う電子の温度がこもっていた
温かい立体だった

わたしは妹の手に
秋の暮れ方の軽さを載せた
それが十年の
記憶だった

思い出される十年の記憶

妹は 積もったわらのその上で
読めない教科書の文字を
指をずらしながら 噛み砕き
読んでいた
伸びたり縮んだりして

わたしはガムを噛んで
指の 摺れゆく音を
聞いていた

栗の木の葉陰に
疲れた陽の粒が無数に灯った
杉は皮の剥けた枝を
小さな川面に翳していた
何かを試すように そうしていた

妹はもういなくなった
地面に刺さったわらの先に
赤とんぼが止まった

もう終わりだった
翳る陽のグラデーションが
肌寒い時間の波頭に砕ける
乾いたわらが細かく
細かく舞い上がり
眼を覆っていく
わたしの眼を
どんどん覆っていく

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