のに/瀬崎 虎彦
 
明け方にこころ ざわつく
人の死があったのだと
匂いで分かる
電話が鳴るずっと前に

昼過ぎに喪服を取り出す
やりかけの仕事を放り出し
昔その方からいただいた
手紙を探してみる

見つからなくて
内容は覚えているので
見つける必要はなくて

今一度その筆跡を
指でなぞっても
その人は帰ってこない のに
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