ふゆの朝は/瀬崎 虎彦
side A
ふゆの朝は
空気が澄み
題名がない
そのせいで
すれ違う人
配達する人
散歩する犬
徘徊する人
みな一様に
言葉を求め
言葉を探し
気がつくと
別々の所で
朝食を摂る
side B
冬の朝に橋の袂で
僕は泣く準備をした
会えない者たちは
ささめく星合の限りではない
川の流れの表面に
細やかな波紋が浮かんでいる
下っているのか上っているのか
僕と同じようにとどまっているのか
もう文面をすっかり暗記してしまった
僕が書いたのではない何通かの手紙を取り出して
ゆっくりと流れに乗せてやる
手紙たちはしばらくはそのまま浮かび
それからあて先の文字が乖離して
ゆっくりと沈み始める
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