死んでしまった女の子から貰った手紙/あらら
 
死んでしまった女の子から手紙を貰ったことがある
もうおよそ二十年近くも昔の話だ
勿論その手紙は亡くなる前に貰ったもので
彼女はその手紙を書いてから三年後に自殺をした

手紙の消印は十二月十八日で
素っ気ないビジネスホテルの便箋が使われていた
封筒に差出人の名前は書かれておらず
私から手紙が来るなんて思いがけないでしょう
とその手紙は始まり
彼女の仕事のこと
いま長期出張で長野の山奥に来ているということ
その長野の冬の景色のこと街中のこと
一緒に来ている男の同僚が我慢ならないということ
フランスの作家のことアメリカの作家のこと
岩波文庫の「水晶」という短い小説のこと

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