僕の腕の存在意義/智哉
幼い時から何かを抱いて眠る癖があった
いわゆる抱き癖というものか
初めは布団や枕
次にぬいぐるみ
そして生身の人間へと対象は変化した
そんな中僕の前に現れた君は
まさに抱くのに最適な対象だった
吸い付くようにぴったりした抱き心地
抱き寄せた時に仄かに香る髪の匂いや
抱き締めた時の手触り
少し悪戯した時の反応
全てが完璧で僕は夢中になれた
君は僕に抱かれて眠るために生まれてきた
本気でそんなことを考えたりして
君の存在意義を勝手に推測までした
そんな頃も君の抱き心地は相変わらず完璧だった
君の容姿や僕のライフスタイルが変わっても
抱き心地だけは変わらず僕の腕は君を抱いた
ある朝突然君は消えた
僕は抱く対象を失い眠り方を忘れた
同時に抱き癖と思われた習慣も失われ
もはや僕の両腕の存在意義は
僕が消えるまで1秒でも永く
君の抱き心地の記憶を守り続けることだけ
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