少し海を見て電車で帰った/瀬崎 虎彦
 
丁寧に折りたたまれてぼくの声は
秋の海の波打ち際
街路が冷たい空気に抱きすくめられる前に
こころを回収するために僕は駅へ向かった

音がいつまでも鳴り止まない海
音声もまたエネルギなのだ
僕の声は僕がたどり着くまで
白い泡とともに岩に張りついていた

ごめんね さびしい思いをさせたね
苦しまなくてもいいの
愛されなくてもいいの

僕は持参した空瓶に
僕の声をやさしくうつしとって
少し海を見て電車で帰った
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