幸せの陰/伊那 果
 
 ささやかな
 雨がぬらす
 静かな窓辺
 くぐもった視界の向こう
 よぎる虹のような

  幸せは必ず去っていくもの
  いつしか身についた予感
  過去の体験が人を作るという
  だから幸せは幸せを呼び
  不幸は不幸を呼ぶ
  幸せの陰を見ながら
  いつも歩む癖は消えない

 ここで手に入れた
 静かな日常は
 ドラマにはならない
 枯れれば捨てられてしまう
 店先の花のようなもの

 捨てる瞬間に誰かが
 わずかに鼻を寄せて
 消えていく命の一瞬を惜しむ
 それだけのもの  

 あまりの静けさに
 誰かが気づかず踏みにじったとしても
 困るようなものではない

 静かな日常の
 豊かさが
 こんなにも胸を突く
 それを忘れてしまうことが
 幸せの終焉かもしれない
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