(パレルモ)明るい方へ/キキ
 
その響きと
余韻しか知らない街で
親しく投げ交わされ
胸にぶつかっては
つぶれて香るトマト
ことこと煮詰めたソースは
ちょっとどころか
すごく甘くて
ふわふわした湯気のなかで
舌がト音記号をなぞる 勝手に

暗やみのなかで
踊るひとの指先に
ひかりが当てられて
たしかに
それほど確かなことはなく
窓べの食卓で
並べられていくグラスと
お皿とフォークと、小さな
スプーンスプーンスプーン

夜の洗濯のために
灯りを落として
風の向きを確かめる
食後のバニラアイスを
買い忘れたことをずっと気にして
どうやって生きていけばいいの。
あの子は言うけれど
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