『あなたの背中を昇る龍』/東雲 李葉
てしまうのね。
もう大人ですもの、悲しくはない。
だけど、お願い。どうか無事に帰って来て。
赤い傷。真新しいから触れると濡れて。
指を這わすと顔をしかめる。あなたがあなたが誰より好き。
お願い、何処にも行かないで。私を置いて行かないで。
もしもの時には電話を頂戴。
裸足のままで飛び出して真っ赤なあなたを抱き締めるから。
初めて会ったあの日からあなたは少し変わったわ。
でも相変わらず龍はあなたの背中を昇る。
とりあえず逃がさないようにと、
窮屈そうに生きている大きな背中に腕を回す。
あなたはきっと私と違う世界の人なのね。
そこはきっと棺のように薄暗くて動けない。
息継ぎでも構わないからどうか私を離さないで。
私もあなたの背中の龍ごとあなたを捕えて離さないから。
銀の光、携えて狭い道を行く足取り。
交わることの無い二人の未来に別れが待っていたとしても、
お願い、何処にも行かないで。私を置いて行かないで。
もしもの時にはあなたの背中の、
真っ赤な瞳に口を付け鱗に刃を突き立てるから。
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