糸/伊那 果
 
 誰かに呼ばれた気がして
 振り向くと
 イチョウの木が灰色に
 ざわめいている
 その名前で呼ぶ人は
 もういない
 私は誰にも
 愛されていない

 駆けっぱなしのパーマは
 ぐるぐると毛先でもつれあう
 ねじれた電話の糸を
 解きほぐそうにも

 点と点を結ぶだけなら
 とても簡単な
 単純な感情が届かないのは
 世の中のせいではなく
 ふたりをつなぐ線が
 どこにもないからだ

   もつれた二人の意図を
   読み解こうにも
   流しっぱなしの蛇口から
   ぞわぞわと嗚咽が漏れていく

 ひとり
 なのだから、はじめから

 イチョウはいう
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