歌を捨てる日/伊那 果
起き上がる前の
暖かい布団の中で
あなたに触れる
限りなく
やさしさに近い場所で
あなたと
生きている
いま
胸を焦がす情熱ではなく
ほおを切るせつなさではなく
抱き枕のようにくるんで
ぬいぐるみのようにくるまれて
幸せとは
歌にならないもの
あなたがつぶやく
ならば歌を捨ててしまおう
今までに間違ったあらゆることを
それでよかったと思える
幸せとは歌にならないもの
あまりにも陳腐だから
そうだ歌を捨ててしまおう
うたたねのやさしさに
よぎる不安は
いまは消してしまおう
もしかしたら
続いていく幸せが
あるかもしれない
いまだけは消してしまおう
あらゆる不安を
そしてあたたかい眠りへ
あたたかい胸に落ちる
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