地面かみなり/オイタル
 
面差しは優雅である。
 そんな杉たちの媚態には目もくれず、手に持った雑草で再びかの行進曲を歌い始めた弟。

 たくさんの人が汗を拭きながら読経を聞いていた。あちこちからすすり上げる声も聞こえた。黒々と並ぶ頭の列はたとえようもない。
 だれも何も言わない。陽の差し込まない暗い本堂で、祭壇の写真を見ながら、読経の声の向こうに聞こえたものは、ようやく稲穂を揺らした風の音。
 少年の頃のイトウさんにも、むしりとった雑草を捨てることを忘れて何かに見とれた、たくさんの夏があったに違いない。

 その時、
「おおい!」
 田んぼのかなたの木の下で、兄が弟を呼んだ。


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