三階にて/しゅう
 
男の手。

 、白い手を抱くと、スカートの裾に血がに
じんだ。肘から先は花壇に埋まっており、ど
こまでが花壇なのか、よくわからなくて、も
う境目と呼べるものはなかった。それは人も
鳥も虫も同じで、ふわふわ浮いて、あるいは
這いずりまわって、同じような鳴き声で呼び
回っていたが、応えあわないで、凍てついた
鉄塔に繋がれていく。

昔月面写真で見た、枯れた海を走っていく。
踏み出すたびに跳ね返される、問い、答え、
ひとつひとつ、ほどかれていく、ノイズ。息
切れして膝をつき、顔を上げた。巨大な空に、
幾本もの鉄塔が生えそめ、旋回する無数の光
を飲んでは吐き出し、新しい名前をつけてい
る。どこかで、弦が切れた。

終わったあとの世界で、祈るだけの日々に
つめを立てる。白い手を握る、淡雪みたいだ。
全速力で走ったら、きっと君は消えてしまう
けど、私は触れていたよ、確かに。だから誰
にもやらない、やらない、嫉妬なんかしない、
重力は無い、誰よりも高く、振り上げた右足
から私はノイズを脱ぎ捨てる。振り下ろす、
くるぶし、


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