クスノキに逢うための習作(1)/長岡瞬
 

シタタルような
緑の自然はいりません。
何百年、あるいは何千年も立ちつづける
そんな樹などはいりません。


青空、と呼ばれた少年を
ぼくは知っています。
ぼくはその子を思い出すたび
唾が口の中いっぱいに溜まります。
一切の
雲は
いりません。


コトバはいりません。
でも、チンモクは
いりません。


鼓膜はいりません。
霧のかかる寒いやまみちを
なぜ、何度も何度も
自動で往復するのか。
いままで
好んで被っていた
黒い帽子はいりません。


蟻と
母はいりません。
黒板の
あの平面ような
父をください。

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