「わたし」の日記/かいぶつ
そして感覚もなく切られてしまえばそれまでで
そんなことを考える内に
ノートに綴られた文字群が
まるで黒髪に宿る記憶の死骸に見えてきて
産み落とされる感覚を捕まえては
脆く機敏な羽虫の抵抗を手の中でもてあそぶ
それがあなたにとって日記に対する
意義ある新しい行為だった
日付だけは異様に情緒的で
空気や色彩、匂いまでもを横溢させている
それは季節を物語るための営みだが
それが只今、窓外でにわかに鼓を打つ
美しい身ごなしの持ち主だとは到底思えない
だから、と言うわけでもなく
あなたは容易く日記を捨てた
書きかけも含め半分は火に投げ入れた
ことのほか盛んに燃えた
開花し枯渇してゆく大輪の花の姿を
微速度カメラで撮影し
再生した映像に良く似ていた
灰をほじくれば
嬰児一人分の骨ぐらいなら出てきても
可笑しくはない気がした
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