夕暮れ/オイタル
、速い小川も、乾いた壁も、何もかもが静まるひと時。
過去の全ての夕暮れが、自分がだれなのかを思い出そうとしてふと立ち眩んだかのような、夕暮れの夕暮れ。
「遊園地に行こうよォ。」
「ぼくおうち。」
「おんぶ。」
「おみず。」
こもごもに跳ね回り、むこうとこちらとに走り出そうとする姉と弟の、握ったそれぞれの手を握り直して、ふと我に返るその時。
「ああ、もう帰ろ。」
「お家。」
「遊園地はァ?」
「あ。もうお家ね。」
二人の顔に下ろした視線をもう一度上げると、これはいつのまのことか、地上の闇が辺りを木々の高さまで飲み込んでいます。
まだ明るさが残る空。茶わんの底にぼんやり沈むように三人取り残されて、静かに静かに手をつないでいる夕暮れなのです。
戻る 編 削 Point(3)