家族/水町綜助
石を蹴ったら靴が脱げて
靴を拾いに行ったら国境を越えた
そんな風に僕はあいさつをして
君はバナナを一本僕にくれた
皮をむいて
あまりおなかは空いていなかったけど
バナナはやっぱり甘く
おいしかった
黄色い皮は酸化して黒ずむ
薄い黄色の身は噛みごたえもなく
もくもくと口を動かすと
ちょうど口に出せない何かを飲み込むようで
飲み込んだバナナはその日の僕をはしらせ
翌日の僕となった
昨日の僕は
今日バナナを食べるなんてこと
考えてもいなかった
*
桜の花びらが落ちるのを目で追ったら
そこは川
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