名前を思い出して/あぐり
 
冷えていく
必死で確かめる手の感触は
歩けば歩くほど不快なものになるのに
決まって早足でわたしは向かい
同じ歩数
同じスピード
同じ肩の強ばり
同じ白蛇の悪寒

噛み締めた歯が痛い
一時間前には笑っていたのに
ちゃんとわたしの身体は
病院へ向かうほどに
病人らしくなるのだから利口すぎて
自動化している自律神経のバグ
たすけて、先生

いつもひっかかってしまう踏切に今日も立ち竦みながら嗚呼吹き飛ばされてみたいこの電車の風に。

(死んでいく細胞はわたしにどんな弔辞をよんでほしいのだろうか)

俯きながら足ばかりが急いでいて
頭の中でずっと
だれかの名前を思い出そうとしている
それは恋人の名前じゃない
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