祭り、花火、姉と紅い夢/結城 森士
 
十七年も前の、夏祭りの夜
祖母に連れられ、幼い私は手を引かれ
祭りの光の中に溶け込んだ八歳の姉を
捜し歩いていたのだ
途中、祖母に駄々をこね
一匹の紅い金魚をすくってもらった
二人と一匹は急ぎ足で
人々の群れの中を
掻き分け進みながら
姉の名前を呼んでいた

邦恵ちゃぁん
邦恵ちゃぁん
お姉ちゃぁん
邦恵ちゃぁん

…大気の振動と地響きと共に
 夜空に大輪の花が散った
 私たちの声は
 他の無数の声によって
 掻き消された
 
あ、紅い金魚が跳ねている
ね。

淡い提灯、橙色の明かり
揺れている ゆら(ゆら 咲き―
―乱れる アジサイ柄の着物を
[次のページ]
戻る   Point(2)