言葉のない世界2 (秋葉原にて)/ばんざわ くにお
JR秋葉原駅の構内の一角に
それはあった
構内といっても
線路の外側のはずれの空き地
駅員も踏み込まない
忘れられた場所
三十年前
ボクは上京したての新入社員
飛び込み営業の話をする先輩を
秋葉原駅までライトバンで送った
下から見えた構内の空き地
夏草が茂っていた
二十年前
ボクは転職する友人と
秋葉原駅で別れた
友人がまぶしく見えた
構内の空き地には
秋の麒麟草が咲いていた
十年前
ボクはひとりで冬の秋葉原駅にいた
構内の空き地には
草は生えていなかった
そこは誰も行かない場所だと
その時気づいた
昨日
ボクは秋葉原駅に行ってみた
その構内の空き地の一角は
三十年前と同じように
夏草が茂っていた
そこは駅員も歩かない
忘れられた場所
その不思議な空間に
秋葉原の賑わいもなく
人の気配もない
そこは
ボクのさびしい記憶が
意味もなく震えている
言葉のない世界であった
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