夕焼けについて/オイタル
一輪車に
汚れた野菜を山積みにして
裸の髪と肩とを透き通らせる
女の冷たく凝った眼が
何がしかの憎しみを額に光らせて
土手を登る男の背中を見つめている
土手を登る男の
土手の上の静寂について書こうと思う
二度と決して戻ることのない
ぼくの底の底の偽りなき静寂について
短い草が足首の辺りをなでる
三本杉の根元を黒い川が流れ
犬が流れてくる
木箱が流れてくる
薄い手袋が流れてくる
細々と身を折って
その身の危うさを確かめて
ぼくは土手にひざを抱えて
ずっと見ていた
タンポポが 風のまにまに
眼を閉じて薄く笑うのを
古びた夕焼けが
大葉の葉裏に
ちいさくさび色に滴るのを
ぼくは白い車の傍らで
ずっと ずっと見ていた
戻る 編 削 Point(12)