いきかえり/小川 葉
 
 
 
この季節になると思い出します
行きも帰りもバスでした
山奥の芋煮会場に着くと
澄んだ風が吹いていました
肌が乾いてなつかしい気がしました
網目になった体を
すうすう吹き抜けていく感触がありました

芋煮ができるまで
煙が目にしみて耐えることもまた
なつかしい苦痛のように思えましたけど
会場の誰一人として
くるしい顔をする者はいませんでした
むしろみな幸せにあふれた顔をしていました
わたし一人だけおかしな顔をしてるように思えて
無理に笑ってみたりもしてみました

芋煮がみなにふるまわれ
わたしも一杯いただきました
こんなすかすかの
乾ききった体にも
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