製氷器。午前0時。/あぐり
震えているのは白蛇が僕を絞めつけているからに違いないのです。白蛇の白と、製氷器の白さ、そして僕の見開いた白眼の白は全て違って、一等綺麗なのが白蛇の白。一等優しいのが製氷器の白。一等哀れなのが僕の見開いた白眼の白です。世界に誰の温もりも感じなくなって、自分の灰の水の熱だけが確立するのです。ハロー。ハロー。もう夜は更けていくだけの機械で明けることなどありません。製氷器が震えているのは僕の震えが伝染したからです。早く速く凍って固まって僕の眼を閉じてください。脱力しながら何処かに精一杯力を入れて荒れないように、溢れても波はたたないように。深い夜の入り口でいつまでも僕が思うことは。ハロー。ハロー。製氷器を胸の下に置いてどろどろと、とろとろと落としていく心の灰の水の心。海に流れたなら午前0時が終わる頃のハローという震わせない声だけが、固まらずに浮かび続けていくのです。ハロー。ハロー。
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