桜吹雪/灯兎
女と歩いていた秋の日も、貴女を抱きしめていた冬の日も、
全てが僕の宝物だったのです。半分しか影を持たずに、生きながら死んでいるような、演劇の中に突然と迷い込んでしまった観客のような、そんな生き方しかできなかった僕の最後を彩るには、いささか綺麗に過ぎるものです。いま、貴女がこの手紙を読むとき、薄紅の花は散っているでしょう。そして、僕もその場所にはもう居ないのでしょう。けれど、どうか泣かないでください。二人の馴れ初めは終わりの始まりでしかなかったのだと、どちらも分かっていたはずでしょう。あの日に、貴女と出会えた奇跡が、今も胸に吹雪いて、やがて落ちていきます。その寂寥は僕が持っていきます。全てを薄紅に染めていく、桜の花びらほどには、甘やかな想いを届けることはできませんが、最後にもう一度だけ、心からの懺悔と後悔、そして感謝を込めてこの言葉で筆を置きます。
――貴女を愛しています――
戻る 編 削 Point(0)