スキー場/小川 葉
 

たった一人しかいない客の僕を待っていてくれて
リフトに乗ると
前にも後ろにも誰もいない
かたかたと揺れる椅子にしがみついて
終点を目指す時間が
これまでの二十年以上の時と変わりない気がすると
そんなものかもしれないと
ひとり頷いていた

リフトの終点で降りる
ストックを手前について
平らなところに滑り降りて見下ろす
その高低差よりもさらに頭上には
遥か高い山脈があるはずなのに
いつも白く吹雪いてその先は見えなかった

お正月
母の実家から見えた
そのひとつの影になるために
僕はいまこの小さなゲレンデを滑り降りる

二十年以上を費やして
登ってきた距離と高さを
いま一瞬のように滑り降りていく

あの日の僕に見えるように
あの日幸せに生きていた
すべての人のために
小さな影が
とても遠いところを滑り降りていくのを
僕は見ていた
 
 
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