特別な朝/石川和広
 
冷たい水やなあ

弟は、云うので、ぼくは

この辺りに、きっと井戸があるんじゃないかと思った

冷たいなあ
弟の赤い頬を見て、そういった

鋭い針を、ノドに刺しこまれるように、鳥は鳴いたのを
ぼくが聞いたとき

蛇口は光ってぼくの頬がひくつき、今日は、特別な朝だと思った

ひかりが山を越えて、影が歩き出して、ぼくは、影に引きずられそうになった


     特別な朝
     歪みながら、美しい生き物を
     青く焼く朝陽


月がまだ見えるなとぼく

たぶん、もうすぐ消えるで
なんか兄ちゃん、顔青いで
寒いから、もう、中、入ろ


ふたりは、走った
中に入った

息、苦しいけど誰にもいわない


覚えている、あの朝、井戸のこと思ったこと
ぼくは、あの時から
なんの流れに乗ったのか

地下水脈

弟は、今日も、絵筆を走らせる

ぼくはどんな天気の日にも
中空に
三叉に走る傷が見える

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