優しいと言わない/靜ト
 
「どうしてそんなに優しいの?」

聞いたら、きみは
子どもみたいに首をかしげて

「優しいってこと、俺にはわからない
 ただきみにしてあげたいから、するだけ」


悪戯っぽく笑っていた(まっくろな、長いまつげの目)


そういえばきみは
優しいという言葉を使わない


「思いやり、優しさをもとう!」
「…に優しい…」
「あたし優しい人が好き」


きみの周りのあちこちに
ヤサシイはあふれているのに



きみは、一度も言ったことがない



でもあたしはしっている

やさしいなんて本当はないんだってこと



あたしにあたえられるすべてのあたたかさは
きみのまっすぐさで、こころで、果ては生きているということで



それをたった四文字で表すなんて
とうてい、できないのだ



きみは優しいといわない


あたしももう君を優しいといわない


ただきみがくれるもの全部を真摯にうけとめて、

ひとつもこぼすまい、と強く目を輝かせるだけ


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