ポケットのなか/熊野とろろ
夜の街を歩く僕はがらんどうで、容赦なく風は僕を通り抜けるのだから僕はまさしくがらんどうそのもので、だけれど僕が見ている街の景色、例えばオレンジ色の街路灯、海まで続くと訊いた道、車のエンジン音には確かに言葉が宿っていて、また言葉から言葉、そして言葉へと果てなく思われる言葉の洪水に僕は静かに飲み込まれていくのがわかる。言葉を拾い集め、ぼろぼろのジーンズのポケットにしまい込み、したり顔を浮かべ、ボヘミアン的な衣を纏い、また歩みを進める。街は言葉、歩みを止めぬ私たちの血には言葉が流れていて、街の言葉と、街の血脈と、奇妙な混ざり合いを試みる。この奇妙な混血が街全体を染め上げるだろう。山を越え、海を越え、見知
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)