みっつ/小川 葉
 
 
 
命がひとつあった
命なんていらないと
思ったときもあった

命がふたつあった
どちらかの命が
残ればいいと
思った恋もあった

命がみっつになった
みっつすべて
残らなければならないと
願ったけれど
命なんていらないと
思ったときがあったことを
思い出していた

命がみっつ
残るため
わたしは嘘をついた
本音などない
うわっつらだけの
乾いたミイラになっていた

死んだも同じだった
わたしに妻が
生きていさえいればいいと言う
息子もわたしが
お父さんであればいいと言う
命がみっつ
あればいいのだと言う

それでも命は
ひとつなのだから
いつか命なんていらないと
ふたたび思ってしまう
そんなことも
あるのかもしれない
いつかかならずなくなるのに
わたしのことを
父も母も
心配してくれた
自分の子だから
自分なのだから

命がみっつになった
今はじめて
愛を訓練してる
三人で
家族してる
気がしている
 
 
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