秋の虫/小川 葉
庭の外に
泣いている人がいる
君の友達だったかもしれない
それは秋の虫だ
りんりんと
しんしんと泣いている
まだ死にたくなかったのだろう
泣く声は、鳴く声になって
いとおしい人を呼んでいる
それは僕なのだろう
君なのかもしれない
そしてやはり
それは君の友達になるはずだった
秋の虫の意識の中にしかいない
誰かなのかもしれなかった
夜は秋
朝になれば冬の気配の足音が
遠くから聞こえてくる
お盆のお墓参りの後
ひらひら飛んでいた蝶に
足が生えて冷たくなって
歩みながらそれは
命に寄り添ってくる
庭の外に
泣いている人がいる
それは君だったかもしれない
しかし掌に捕まえてみれば
まぎれもなくそれは
秋の虫なのだ
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