今日、鶏のシチュー/瀬崎 虎彦
枯葉のカサカサ鳴る音を聴き、傘の雫を払いながら、古くから家にある毛布を思い出していたんだけど、もう何度も引越しを重ねてしまったので、そんな毛布があるはずもないのに不思議なこと、と思って照れた。多分雨の匂いのせいだ。
私が仕事から帰ってくると、分かってはいたけれど予定調和的に、君が机に向かって本を読んでいて、君の自慢のボーズのスピーカーからビル・エヴァンス・トリオが低く流れている。私は服を着替えてから、お湯を沸かしコーヒーを入れる。君のカップはコーヒーのアクというのか、茶渋のようなもので真っ黒で、一度私が漂白したことがある。その時君はとても不機嫌になった。そういうことで言葉を尽くして、相手をね
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