デイドリーム・ビリーバー/小川 葉
港のにおいがする
海ではなく
人間くさい
暮らしがあるところに
海ちゃんがいる
死んだはずなのに
どうしているのだろう
首をかしげると
首がないことに気づく
わたしの耳に
暴力のような音が聞こえる
なぜだろう
ありもしない足が
踵から沈んでいく
この感触は砂だ
さらさらとしている
幅も奥行きも高さもないのに
その形は正確に存在し
存在していない
海ちゃん
無意識に声が漏れてしまう
そんな夜だけは
なぜか口だけがあった
気がつくともうなかった
生きているものが
言いわけに忙しい
日々は夢だけれども
信じることで
生きていられるのなら
海ちゃん
ぼくは君に
どんな言葉を
かけてあげれば良かったのだろう
君をまもるために
いったい何を
訴えなければならなかったのだろう
生きていることや
ここにいることの罪を償うと
わたしと海は
はじめて
ひとつになっていた
海ちゃんは
人ではなかった
罪でもない
ただ港町の酒場から
酔いどれの歌う声が
電話ごしに
聞こえているだけだった
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