サイレント/プテラノドン
 
 トラックから振り落とされた石柱が道路に転がる。
汗ばんだ灰色のTシャツに、色あせた濃紺のズボンをはいた運転手が、
ちぎれたワイヤーを手に空を仰いでいた。往来する車の窓は
ほとんど開いていて、視線はこっちに注がれている、ここでは
蝉の声の方がよく響いている。
 上空ではヘリの音―薬品散布でもしているのか―それもじきに、
サイレンに変わる。これから厄介事の後始末が始まる。上司は、
家族はなんて言うのだろう?ちぎれたこれが電線だったら、
「こめかみに当てて死ねるのによ」と彼の口が動く。しかし、
渋滞を引き起こしたことにしょげる必要はない。僕はかつて
兄と二人、チンピラと橋の上で喧嘩した際、道路を二時間も
通行止めしたし、多勢に無勢で負けたしね。遠くまで続く渋滞は
帰省ラッシュのそれと同じに見えて笑えるだろ。

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