紅茶が冷めるまで/小川 葉
していた
八×八=六十四
ばっぱ、ろくじゅうし
祖母はまだ五十代で
まだ六十四歳ではなかったけど
自分もいつか
六十四歳になるのだな
というような
顔をして
遠い目で
幼い僕を見つめて
頭を撫でてくれていた
そのことがまるで
昨日のようだ
祖母が後妻だと
はっきり知ったのは
それからずいぶんたって
僕が大人になった頃だけど
紅茶なんて飲むことのなかった
祖母が死ぬ前に飲みたかった
一杯の紅茶は
命とともに冷めていって
こうちゃんが誰なのか
今も知らない
これからも知らなくていい
過去があるから
家族であることができた
時代があったのだと
あの頃を思い出すように
今もあるような気がしている
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