紅茶が冷めるまで/小川 葉
こうちゃんがいる
淹れたての
紅茶の湯気の向こうにいると
寝言を言って
祖母は祖父を追うように
逝ってしまった
けれども祖父は
こうちゃんという
名前ではなかった
むかし
僕が五歳くらいの頃
祖母が知らない子供を連れてきて
一緒に遊んだと
母に話すと
そんな子は知らないと
強く否定したから
大人の事情のような気がして
二度と聞くことはなかった
その子供と一緒に撮った
写真があったはずだけど
そのことさえ夢のように
定かではない
祖母が僕と
血がつながってないと知った
ものごころついた頃
その意味もわからずに
九九を練習して
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