ロックバー/松本 卓也
 
問いかける様に見つめられると
結局辿り付けない気になって
どんな言葉も相応しくないと
いつも口をつぐんでしまう

伝えたいことがあるのに
薄暗い照明と騒がしい音楽と
楽しげな笑い声に包まれて
酔って歌わなければならない僕は
なんて情けない男なのだろう

それが僕の音であれば
誰の言葉だって構いやしない
君の胸に届いてくれれば
そんなの独善に過ぎないなんて
分かりきっていたとしても

誰かの歌に祈りをこめて
声を張り上げ喉を震わし
視界から失わないようにしながら
目を合わせないよう怯えながら

曲が終わり溜息をつく
僕にグラスを勧めつつ
微笑む潤んだ唇を
今すぐにでも塞ぎたい


戻る   Point(5)