存在のダイヤル/伊那 果
 
 感情のもつれを
 解きほぐすように
 受話器から延びる線を
 逆に回している
 回線の向こうの
 静かな苛立ちが
 ザーッと時折混じる
 誰か妨害しているの?

 向かい合わなくても
 つながれるようになった日から
 人は自由になったと
 信じていたけれど
 電波に乗ったこの声は
 どれほど真実なのだろう

 私は時代遅れの黒電話のダイヤルを回して
 戻っていく輪っかを眺めて
 もしかしたらこの時間が唯一の
 円熟なのかもしれないなんて考えている

 雑音は気持ちとは関係ない
 コードレスなんだ
 あなたはいう

 そうそれだけのことだけれど

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