小説『花垣線』/オイタル
 
車を待った。

電車はなかなか来ない。
裏手の山は、
暗い塊になって、空を圧迫している。
闇の遠くで鳴る風が、ホームの柱に、傷のような音をたてている。
ホームの反対側では、何人かの男たちが、
コートのポケットに手を突っ込んで、電車を待っている。

ようやく電車がやってきた。
三つの車両の中は、どれも黄色い照明で明るい部屋を作っている。
開いたドアの前で、
ところが先ほどの男たちが何か言い合っている。ちょうどドアのところで。
私は乗り込めない。
別のドアから入ろうとすると
争っていた男の一人が私を呼び止めて、言いがかりを始めた。
電車の車掌が何か言っていたが、
やがて激しい音をたててドアは閉まり、電車は出発してしまった。

電車は
どんどん、出発していく。
わたしは
どんどん乗り遅れていく。
どんどん
乗り遅れていく。

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