Implicit Circumstance/瀬崎 虎彦
 
ボタンを外していく器用な指の動き
パンをちぎり口へ運ぶ迷いなき指の動き
ミメーシスの強迫観念もなりをひそめて
肩の高さで揺れる髪に無言になる宇宙

丸い乳房 しなやかなアキレス腱 唇 声
世界の食卓は美しい線分で構成されており
それを見出せるかどうかは ただひたすらに
感性を意識的に愛に向けることにかかっている

蛍光灯の下展翅盤の上でセラミックな皮膚が拡げられ
影を落とすわたしの指は波間に浮かぶ船のかたちをし
なぞる速度とユニゾンする声が真白き天井に反響する

吐く息の熱さと両手に包み込む肩の重さは
いま確かにここにいることをわたしに保証する
あなたはわたしを世界につなぎとめる唯一つのピンである
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