きつねの辻/オイタル
 
欄干のすぐそばでゆれていた緑の長い葉を
頭上でちぎって歩くと
いつの間にか橋は終わっていて
下り始めるその道のはじめに
モリヤ商店はたっていました

コーラを買ったり
買わない店の奥の暗がりから
女の笑い声が聞こえたり

アキラくんはいじわるで
白い笑顔に細い目をながして
僕らの背中を見ていました

桜もコスモスもない夏の午後
帰り道の半ばに
大きなポプラが立つ家があり
希望の一部をくりぬいたように
細かな枝と生い茂る葉をざわざわと
青空に細かく刻んで

「おいイタル、一緒に帰ろう。」
アキラくんはそういって
ぼくともう一人の友達を従えて
川沿いの古びた道
砂利をけって下っていくのでした

ねぎとキャベツを植えた畑のむこうに
看板も何もない
空っ風にまかれて干からびた床屋が
立っていて

黒い小川が
星を落としてひらひらと流れました

やがてゆっくりとカーブする夕暮れの道の終わり
新たに十字をつなぐ その辻に
きつねが一匹 白く尾を伸ばして
じっとこちらを見つめているようです
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