指輪/灯兎
 
 
 冬の香りが酔ってしまいそうなくらいに残っているこの校舎は、老犬みたいにうずくまって、生徒の熱気とのギャップに戸惑っているようにも見える。所々にようやく茶色い元の色が見えてきていて、白い毛みたいに雪が残っている。こうして見てみると、雪というのは不思議なものだ。実際的な存在というほどにも確からしくないし、概念的な存在というにはいささか確からし過ぎる。そんな半端さが、彼らをいたたまれなくさせ、春が来る前にすっかりいなくなってしまうのだろうか。まるで僕みたいだ、なんて自嘲めいた呟きを漏らすと、後ろから彼女が声をかけてきた。
 「こんな日に何をぶつぶつ言ってるの?辛気臭いなあ」
 「卒業式だから
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