夏の命日/小川 葉
 
 
 
言葉にならないことを
言葉にする
しなければならない
そんな時
壊れやすいものを
投げつけて
壊してしまった
そのことを
生きてるだけでいいのだと
ゆるしてくれた
生きてるものが
かつてあった

かつて生きてあったもの
お墓参り
掌を合わせ終えた後
アゲハチョウが
どこからともなく
わたしを過ぎてく
ふりむけばもういない

あれはきっと
おばあちゃんだ
八月十四日に亡くなった
あと一日
終戦が早ければ
死ななくてすんだのに
という話を
かつてあなたから聞いた気がする
遠ざかる
夏の命日に

十三回忌の
夏の空はもう秋だ
おばあちゃんが
その空の
鰯の雲の
一尾に還っていくと
アゲハチョウは
ふと我に返り
いつかも知らず
どこかもわからないまま
命ある夏の日を
ひとり静かに思い出していた
 
 
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