鰻の行方/亜樹
 
もが黒い水の中に溶けてしまっていた。次第に眼が慣れてくると、その黒い水面に映る自分の顔が見える。それもまた、ゆっくりと水に溶けていくような気がする。怖ろしくなった敬三は、急いではしごを上ると、急いで外へと逃げた。
 むあっとした重たい空気をおもいっきり吸う敬三を、父親はけらけらと笑った。
「おらんかったじゃろ」
「うん……」
 短く答えながら、敬三は井戸をとりかこむ紫陽花が、いつになく赤いのにようやく気がついた。

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