自然、体/熊野とろろ
或る部屋の窓辺で
日が陰を大きく傾げるのを
ただ子供らの声とも
蝉の啼く声とも判別し得ぬ
まどろんだ感情のまま
ひと思いに飲み込んだ
風景の無味乾燥な後味が
一度体内で逆流を試みたものの
あちらで佇み こちらで佇み
残像のように消滅していった
瞬間の熱に浮かされた
こころというこころを
弱風の扇風機で冷やす
ベランダに生成する苔の彩で冷ます
気が気でなく悶々とするうち
辺りは落ち着きを取り戻していった
立ち上がり眼を凝らす
いま
風景を拡張させている
帰らない風景を
自らの手ではどうすることもできないことと知りながら
浮かび上がり
高くから
この色彩の幹となることを強く欲求した
漲る緑に埋もれず
葉のひとつも持たない枯木
その伸びた二、三の手が
欲求している
幼きまま、ちからなく
突き出して
欲求している
頭上に雲が流れ
木々たちが入り組み
生命を滾らせる
人間も同じように混ざり合い
風景を手中に収める
こころに彩がある限り
褪せることなくただ広がっている
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