ジッパーで世界は隔てられている/瀬崎 虎彦
が欠落してその穴にかさぶた
かさぶたもジッパーで出来ている
ジッパーはかさぶたで出来ている
女の性器と叢生する恥毛もジッパー
悪に充溢する世界へと
さらなる悪を注ぎ込み
穴の中からまた悪を生み出す男と女
ルフトハンザと提携したエール・フランス
ライプニッツが完全に普遍なる言語を夢想し
エコノミークラスの席で縮こまって
人種差別の混浴風呂に入っている
そうだアフリカへ行くのだ
黄熱病とマラリアとエイズの
経血が大地を潤す卑猥な大陸
犯されすぎて生み出せなくなった巨大な女性器
殺されすぎて若者も老人も男も女もいない
そこには怯えた目をした哀しみだけが
明け方の街頭に集まる蛾のように震えている
ボタンなら掛け違えても気づきさえすれば
このジッパーは初めから世界を
隔てるために大海を引き裂いている
脳に穴を穿つのは怖いので
意気地なしの僕は詩を書いた
意味のない死はないという弁解を差し挟まずに
失われた命に宛てて何篇も詩を書いた
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