20世紀のかなしみ/瀬崎 虎彦
さよなら、20世紀のかなしみ
戸惑うばかりに時を紙やすりで削り
緑が朝の雨に研がれていく
薄暗い台所では 食べる営みの準備
食い繋いでいく真摯な必要性を包(くる)む
食べもしないのに殺された人間の残骸で
橋が出来上がり、石鹸とボタンが量産され
学術は大西洋を渡った 春に
根も葉もない
剣の上で 心持ち頸をかしげた君が
僕たちの残り僅かな希望 を吹き上げる
さよなら、20世紀のかなしみ
朴訥なキャベツを踏みしだく鉄の舌
朝夕にラベンダーから情報を発信するラジオ
葬儀もない ありふれた命の終わりを
僕たちは当たり前のように忘れている
ペストは海を
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