カタツムリの旅/伊那 果
蒼暗い幹の中で
流れる水たちが語り合っていました
この雨はいつやむのだろうね
雨の粒はやさしいリズムを奏でながら
水のつぶやきを消していました
雲の陰では三日月が
小さないびきをかいて寝ていました
その夜 カタツムリは旅に出たのでした
のそり のそり のそり
疲れたら 身を縮めて
まるい貝の中で眠るのです まいまい
何でもいいから 何でも見たかったのです
まいまい
カタツムリは歩き続けました のそり
のそり のそり
尽きぬ旅
やがて珍しいものがなくなって
思いました 何を探しに出てきたのだろうと
味わいたかったことはいま 痛みを伴う記憶とともにあり
いま味わいたいのは 幹の水のつぶやきと あの雨のリズムなのです
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