かさぶた/伊那 果
りを
しまっているんだそうな
すべて、消えてしまうわけではなくて
手を重ね合わせるだけで胸の奥にこみ上げた せつなさ、としか呼べない感情は
けして、消えてしまうわけではなくて
低気圧に揺られる激しい風鈴の音とともに
よみがえってきたりするのだ
少女時代の記憶が
なぜか麦藁帽子とすいかというお決まりのイメージで
本当は私は野球帽をかぶったすいか嫌いの女の子だったとしても
そういう定型の中に、沈められていくのだ、日常は
だから手を重ねるだけで、愛し合っていると、信じてしまったのだ
(だから今、涙を流したりするのだ、悲しいものだ、と思い込んで)
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