かさぶた/伊那 果
 
 いつ転んだときの傷だったかも
 わすれてしまっていたけれど
 かさかさに乾いたかさぶたを
 
   (だからかさ、ふた、っていうんだろうね)

 ぺりっとめくると
 透明の液体に混じった赤い細い糸

    (あ、チだね、これは)

 それで私は
 一生懸命探るんだ
 あつく熱せられたアスファルトの上
 こすれていく皮膚
 頭の上のぎらぎらとした太陽
 この傷の記憶を

    頭の中にはたくさんのたくさんの引き出しがあって
    忘れてしまっていいことや
    忘れてしまっては困ることや
    忘れてしまいたいことや
    あなたのぬくもりを
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