詩を書く前にぼくが感じる気持ち/瀬崎 虎彦
 
ただ一人君だけに 止まった時計が
感情のない 瞬きをおくる
遠い夜明け 君が字を覚えるより前の
低く響き渡る クラリネットの音楽

土の下から緑色の そして嫌な匂いのする
濃い霧のようなものが立ち カーテンを越え近づく
眼を閉じても眼をそらしたことにはならない
眼を閉じる前から知っていることなんだけど

床の上をひたひたと歩く だんだん早く
もつれる舌で叫ぼうとする 無益に
今ここで起こっていることを目撃してはいけない

朝が来る前に君は感情を殺してしまう
それから言葉は上手く出てこなくなってしまう
詩を書く前にぼくが感じる気持ち
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